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  1. emuyoko

    昔、登山道の補修作業で行ったことがあって、岩にペンキで文字を書かされそうになったことがある。実際には書かなかったけれど、そうした行為には、何かざらついた感情というか、違和感がある。それは自然保護の観点からというより、もっと素朴な違和感、嫌な感情を喚起させる。大地に何かを描くこと自体には、何か、不気味な感触を伴う。

    ミクロネシアのヤップ島では、かつて、フェイという石貨が使われていた。 平べったい丸石に穴を空けた五円玉のような石。 価値は、石の大きさとその由来で決まっていた。 高い買い物をしてしまったら、大きな石貨で支払わなければならない。 穴に棒を通して江戸時代の籠屋のように石貨を運べるならまだしも、 人間大の大きさになってしまったら、とても運べない。 それで島民たちは、「運んだことにしました」「運ばれたことにしました」 という口約束でOKにした。つまりは信用取引が開始された。 いちばん裕福なフェイの家族は石そのものを所有していなかった。 というのは、その家族の先祖が超巨大なフェイを筏で運ぶ途中で 嵐に巻き込まれて海の底に沈んでしまったから 島にはないのだ、という。 19世紀前半まで、ヤップ島ではそんな経済生活が営まれていた。 そこにやってきたのがドイツだ。

    19世紀末にドイツはヤップ島をスペインから買い取った。 そしてヤップ島内に道路を造らせようとしたのだけれど、 島の人たちは今の道で充分、不要だ、ということで働かなかった。 それでドイツ人のやったことは、島にあった巨大なフェイに×印を書いてまわり、 あのフェイは無価値だ、いや、ドイツのものである! と主張したのだ。 島民は「えぇえええ?? そ、そんなぁ!」ということで、 心情的には超お金持ちから大貧乏人になってしまったのだった。 フェイはなんとしても取り戻さなければならない。 それで仕方なくドイツ人の言う道路工事をやらざるをえなくなった。 ドイツ人は道路が完成すると×印を消した。 これで島民は裕福に戻りましたとさ……おしまい。

    極めて刺激的で、同時に2008年3月の現在を照らす一文が出ている。 「連邦準備銀行はドイツ政府が石貨に「黒ペンキでX印を付けた」のと同じようなことをしたのである」 フランスは手持ちのドルと金を交換したが、その金はアメリカ連邦準備銀行内にある金で、名義だけ変更したのだ。このニュースをきっかけに、世界は恐慌へと暗転するのだ。

    気になった記事を抜粋させていただくと、 「ヤップは楽園的な外見とは裏腹に意外に自殺率の高い島なのですが、その背景にはこうしたアイデンティティの喪失という問題があるとも指摘されています。それで、数人の古老は偉大な航海者であった先人たちに倣って再び石貨を運ぶ航海を行い、石貨を通じて物語と価値を共有してきた島の文化を見直そうと言い出したのです。そして、私たちは縁あってこのプロジェクトを全面的に支援することになりました」

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